デバイスは一台では足りない？―ITトラブルと人間の認識に共通する「対照」の力

私たちの生活に欠かせない存在となったパソコン。

仕事に、趣味に、学習にと、日々パソコンと向き合う中で、トラブルに直面した経験がある人は少なくないでしょう。

「急にネットがつながらない」「印刷ができない」「アプリが起動しない」——こうしたトラブルに見舞われたとき、多くの人は原因を突き止めようと躍起になります。

しかし、実はこのとき、「パソコンが1台しかない」ということが、解決を難しくしているのです。

一台だけでは「比較」ができない

トラブルに直面したとき、もっとも有効なのは「対照実験」です。つまり、正常に動作する別のパソコンと比較すること。たとえば、

• 同じウェブサイトにアクセスできるか？
• 同じプリンターに印刷命令を出してみるとどうなるか？
• 同じWi-Fiに接続してもスピードはどうか？

こうした比較を行えば、問題の原因が「パソコン本体にあるのか」「ネットワークにあるのか」「設定の違いなのか」が一気に見えてきます。

これは、理科の実験や医療の治験とまったく同じ原理です。原因を特定するためには、比較対象（コントロール）が不可欠なのです。

なぜ2台目が必要なのか？

ITトラブルの原因は、以下のように非常に多岐に渡ります。

• ハードウェアの劣化や不良（HDD、SSD、メモリなど）
• ソフトウェアの不具合（OS、アプリ、ドライバ）
• ネットワークの問題（Wi-Fi、LAN、プロバイダ）
• 周辺機器の相性（プリンタ、マウス、ディスプレイ）
• ユーザーの操作ミスや設定

こうした中で、たとえば「ブラウザが表示されない」といった一見単純な問題でも、原因は十通り以上あり得ます。
しかし、2台目のパソコンがあれば、それを使って「比較する」ことで多くの可能性を一気に除外できます。

ITサポートのプロほど、必ず「もう1台の正常動作するパソコン」を使って問題の切り分けを行っています。
パソコンに限らず、スマートフォンやタブレットでも同じです。

主観だけでは「真実」は見えない

この「比較」の重要性は、実はITに限った話ではありません。
人間の思考や認識も同じく、主観だけでは本当のことが見えてこないのです。

人はそれぞれ異なる立場、異なる経験、異なる価値観を持っており、「自分の視点だけ」では、世界のごく一部しか見えていません。

たとえば、ある出来事を見て「これは失敗だ」と感じたとしても、別の人から見れば「貴重な経験だった」と捉えられるかもしれません。
ある人にとっては「便利」と感じるITツールが、他の人にとっては「使いにくい」と感じられることもあります。

IT時代の今だからこそ、「他者の視点」が貴重

現代は情報の時代です。SNSや動画、ブログ、レビューサイトなどを通して、私たちは膨大な情報に触れることができます。
しかしその反面、自分と似た意見ばかりが目に入る「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」に閉じこもりがちにもなります。

こうした状況では、自分の考えに疑問を持つ機会が減り、いつの間にか視野が狭くなってしまいます。
だからこそ今、「他人の考え」や「別の意見」に耳を傾ける力が必要なのです。

「対照」と「比較」の思考は、あらゆる場面で使える

パソコンのトラブル解決から始まり、人間の認識にまで広がる「比較」の力。これは、次のような日常のあらゆるシーンで活用できます。

1. 教育現場での評価

テストの点数だけで生徒を評価するのではなく、過去の自分と比較する、他の生徒の努力と比較することで、より立体的な理解が得られます。

2. 商品やサービスの選定

1つの商品だけを見るのではなく、類似品と比較することで、価格・機能・サポートの差が見えてきます。

3. 自己成長の記録

自分の考えや感情を過去の記録と比べることで、自分自身の変化に気づけます。

4. ビジネス戦略の検討

競合他社のサービスやマーケティング手法と比較することで、自社の強みと弱みを客観的に把握できます。

結論：「もう一つの視点」を常に持とう

パソコンのトラブルを前にしたとき、「もう1台ある」ことがどれほど安心か。
それと同じように、私たちの思考や判断にも、「もう一つの視点」「もう一人の目」があることがどれだけ大切か。

デバイスの比較が原因特定に不可欠なように、人間の認識もまた、「対照」があってはじめて真実に近づけるのです。

ITの世界では「シングルポイント・オブ・フェイラー（単一障害点）」が最も危険だと言われます。
人の考え方もまた、一つの意見・視点に頼りすぎることが、思考停止の原因になるのかもしれません。

ぜひあなたも、次に何か問題が起こったときには「もう一つの対照」を探してみてください。
それが、パソコンのトラブルでも、人との意見のすれ違いでも、自分自身の悩みでも——。

「一台では分からない」。
それはパソコンだけでなく、人生にも通じる真理です。