【警鐘】Wakatte.TVは社会の鏡？「偏差値」という麻薬が、君と日本の未来を蝕む理由。

先日、ふと目にしたAbema Primeに、あのWakatte.TVの二人が出演していた。街ゆく若者に大学名を聞き、「Fラン！」「高学歴！」とジャッジする。その過激で、ある種の中毒性を持つコンテンツは、相も変わらずネットをザワつかせている。

「不快だ」「人を学歴でしか見ていない」「日本の学歴コンプレックスを助長している」

そんな批判の声が聞こえてくる。もちろん、その感情はよくわかる。しかし、彼らを単に「悪趣味な炎上系YouTuber」と切り捨て、思考停止してしまうのは、あまりにもったいない。

なぜなら、彼らの存在は、現代日本社会に深く、そして静かに蔓延する「偏差値至上主義」という病巣を映し出す、あまりに正直な鏡に他ならないからだ。

この記事では、Wakatte.TVという現象を入り口に、なぜ私たちは偏差値という「わかりやすい数字」に囚われてしまうのか、そしてその思考がいかに危険で、私たちの未来を破滅に導きかねないのか。ハーバード大学の研究や専門家の知見、そしてネットに渦巻く「みんなの声」を交えながら、徹底的に解剖していく。

これは、遠い世界の誰かの話ではない。あなた自身の価値観を揺さぶり、未来の選択を変えるかもしれない、重要な物語だ。

第1章：なぜ我々は「偏差値」に魅了されるのか？ - 分かりやすさという甘い罠

Wakatte.TVの動画が、なぜあれほど再生されるのか。その構造は驚くほどシンプルだ。

1. ターゲットの特定： 街ゆく若者に所属大学を尋ねる。
2. ラベリング： その大学の「偏差値」という単一の指標に基づき、「高学歴」「Fラン」といったラベルを貼る。
3. 序列化と選別： ラベルに基づき、優劣をつけ、対応を変える。

このプロセスが、一部の視聴者に奇妙な快感をもたらす。複雑で多面的な「人間」という存在を、「偏差値」というたった一つのものさしでスッパリと切り分け、序列化してくれるからだ。そこには、「考える」という面倒なプロセスをすっ飛ばせる、インスタントなスッキリ感がある。

特に、人生の岐路に立つ高校生や大学生は、この罠にかかりやすい。大学受験というシステムにおいて、偏差値は絶対的な目標であり、合否を分ける客観的な指標として君臨する。毎日、模試の結果に一喜一憂し、「偏差値があと5足りない」と机にかじりつく。その環境にどっぷり浸かっていると、いつしか「偏差値＝人間の価値」という歪んだ方程式が、脳に刷り込まれてしまうのだ。

Wakatte.TVは、その刷り込みをエンターテイメントとして巧みに利用し、再生産している。高学歴の者は優越感に浸り、そうでない者は自虐やルサンチマン（怨恨）を抱く。どちらの感情も、この「偏差値」という共通言語の上で成り立っている。彼らは、この社会に存在する巨大な学歴コンプレックスという沼から、視聴者の感情を釣り上げているに過ぎないのだ。

第2章：「学力」で測れるものは、人間の能力の“ごく一部”に過ぎない

では、その絶対的な指標だと信じられている「偏差値」は、一体人間の何を測っているのだろうか。

答えは「ペーパーテストで解答できる能力」、それだけだ。記憶力、情報処理の速さ、論理的思考力の一部。もちろん、これらは重要な能力だ。しかし、これが人間の価値のすべてであるはずがない。

ここで、ハーバード大学教育大学院のハワード・ガードナー教授が提唱した「多重知能理論（Multiple Intelligences）」に触れたい。彼は、人間の知能は単一ではなく、少なくとも8つの異なる領域に分かれていると主張した。

1. 言語的知能： 言葉を巧みに操る能力（詩人、作家）
2. 論理数学的知能： 数的・論理的な問題を解決する能力（科学者、数学者）
3. 音楽的知能： リズムやメロディーを認識し、創造する能力（作曲家、演奏家）
4. 身体運動的知能： 身体を巧みに使って表現・問題解決する能力（ダンサー、アスリート）
5. 空間的知能： 空間的な世界を認識し、操作する能力（建築家、パイロット）
6. 対人的知能： 他者の感情や意図を理解し、効果的に関わる能力（教師、カウンセラー）
7. 内省的知能： 自分自身を深く理解し、自己をコントロールする能力（哲学者、宗教家）
8. 博物的知能： 自然界の事象を認識し、分類する能力（生物学者、シェフ）

日本の大学入試で主に測られているのは、このうちの「言語的知能」と「論理数学的知能」の、さらにごく一部だ。他の6つの知能は、ほとんど評価の対象にすらならない。

さらに近年、社会的な成功や人生の幸福度において、IQや学力よりも重要だと注目されているのが「非認知能力」だ。これは、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授が提唱した「GRIT（やり抜く力）」や、自制心、好奇心、誠実さ、協調性、回復力といった、テストでは測れない内面的な能力を指す。

考えてみてほしい。社会に出て本当に重要になるのは、困難なプロジェクトを最後までやり抜く力、意見の違う同僚と粘り強く対話し合意形成する力、予期せぬトラブルに見舞われても心が折れない回復力ではないだろうか。これらの力は、マークシートを塗りつぶす速さとは全く関係がない。

つまり、偏差値とは、人間の持つ豊かで広大な能力という山の、ほんの一合目を測っているに過ぎない。その一合目の標高だけで山の高さを決めつけ、他の美しい景色や豊かな生態系を無視するのは、あまりに愚かで、危険な行為なのだ。

第3章：偏差値至上主義が未来を壊す - 社会を蝕む4つの“猛毒”

「個人の価値観だからいいじゃないか」「エンタメに目くじらを立てるな」
そう思うかもしれない。しかし、この「偏差値至上主義」という思考は、個人の問題にとどまらず、社会全体を確実に蝕んでいく猛毒なのだ。

毒１：イノベーションの枯渇
偏差値教育は、本質的に「減点方式」だ。用意された正解を、いかに早く、正確に導き出せるかを競うゲーム。このゲームに最適化された人材は、失敗を極度に恐れ、前例のないことへの挑戦を避ける傾向が強い。
しかし、現代社会が直面する課題に、もはや「正解」などない。気候変動、パンデミック、超高齢化社会…。未知の問いに対し、多様な才能を持つ人々が協働し、試行錯誤を繰り返す中でしか、イノベーションは生まれない。偏差値という単一のものさしは、社会に必要な「異能」や「出る杭」を叩き潰し、結果として国全体の活力を削いでいく。

毒２：深刻な社会の分断と不寛容
「高学歴は勝ち組、Fランは負け組」。Wakatte.TVが戯画的に表現するこの構図は、現実社会に根深い分断を生む。「あいつは〇〇大学だから話が通じない」「低学歴のくせに偉そうなことを言うな」。そんな学歴を盾にしたマウンティングや見下しが横行し、人々は互いを尊重し、理解し合う機会を失う。
これは、出身大学だけでなく、出身地や年収、職業など、あらゆる属性による分断へとつながる。異なる背景を持つ他者への不寛容が蔓延した社会は、もろく、崩れやすい。

毒３：個人の幸福度の著しい低下
「良い大学に入り、良い会社に入れば幸せになれる」。この高度経済成長期に作られた単線的な成功モデルは、もはや幻想だ。しかし、偏差値至上主義はこの古い価値観を強化し、多くの若者を呪縛する。
このレールから外れた者は、強烈な自己否定や劣等感に苛まれる。逆に、レールに乗れた者も、本当に自分がやりたいことを見失い、「こんなはずじゃなかった」と燃え尽きてしまうケースは少なくない。自分の「好き」や「得意」を追求する喜びを奪われ、社会が決めたものさしに振り回される人生は、果たして幸福だろうか。

毒４：本質を見抜く力の欠如
学歴や肩書きという「ラベル」でしか人を判断できなくなると、物事の本質を見抜く力が衰える。素晴らしい才能や誠実な人柄を持っていても、学歴が低いというだけでチャンスを与えられない。逆に、中身が伴わない人物でも、高学歴というだけで重要なポストに就いてしまう。
これは、企業や組織にとって致命的な判断ミスにつながる。真に価値あるものを見極める「眼」が社会全体で曇ってしまえば、その先に待っているのは緩やかな衰退だけだ。

第4章：「偏差値」をめぐる、みんなの声

この問題について、世の中の人々はどう感じているのか。SNSに渦巻くリアルな声を見てみよう。

【擁護・容認派の声】

「なんだかんだ言って、高学歴の人は地頭がいいし努力もできる証拠。ある程度の指標にはなるよ。」

「Wakatte.TVはただのエンタメ。真に受けて怒ってる人は、自分が学歴コンプレックスなだけでしょ。」

「就活で学歴フィルターがあるのは紛れもない事実。きれいごとだけじゃ生きていけない。高学歴は有利なカードだよ。」

彼らの意見は、偏差値という指標が持つ「利便性」と「現実的なメリット」を指摘している。努力の可視化、採用活動の効率化など、社会システムの一部として機能している側面は否定できない。

【批判・懸念派の声】

「高校時代、偏差値が低いってだけで先生にバカにされたのが一生のトラウマ。人の価値を数字で決めつけないでほしい。」

「Wakatte.TVみたいなコンテンツが、必死に勉強してる受験生の不安を煽り、学歴による分断を加速させてる。社会にとって害悪。」

「うちの会社にもいるよ、東大卒だけど全く仕事できない人。大事なのは学歴じゃなくて、入ってから何ができるか。コミュ力とか誠実さとか。」

「偏差値のせいで、本当は学びたかった芸術の道を諦めた。いまだに後悔してる。」

こちらの声は、偏差値というものさしがもたらす「痛み」や「弊害」を生々しく物語っている。個人の尊厳の毀損、社会の分断、そして人生の選択における呪縛。

これらの声は、多くの人が偏差値の「便利さ」と「残酷さ」の狭間で揺れ動き、この問題が他人事ではないことを示している。

結論 ：「偏差値」という呪いを解き、君が本当に持つべき“ものさし”

Wakatte.TVを批判するのは簡単だ。しかし、彼らは問題の「原因」ではなく「結果」である。彼らが突きつける鏡に映るのは、偏差値というたった一つの神を崇拝し、それ以外の価値を切り捨ててきた、私たち自身の歪んだ姿なのだ。

では、私たちはどうすればいいのか。この呪いを解くために、何をすべきなのか。

答えは、自分の中に、そして社会の中に、「多様なものさし」を持つことだ。

偏差値は、数あるものさしの中の、たった一本に過ぎない。しかも、測れる範囲はひどく限定的だ。それを知り、絶対視するのをやめること。それが全ての始まりだ。

1. 自分だけの「ものさし」を創り出す
君が本当に心から「好き」だと思えることは何か。時間を忘れて没頭できることは何か。誰かに褒められなくても、価値を認められなくても、これをやっている時の自分が好きだと思えることは何か。それが、アートでも、プログラミングでも、人と話すことでも、自然を観察することでもいい。その「好き」を突き詰め、磨き上げることが、君だけのオリジナルな「ものさし」になる。

2. 他者の「多様なものさし」を心から尊重する
自分とは全く違う分野で輝いている人をリスペクトしよう。圧倒的な身体能力を持つアスリート、人の心を揺さぶる音楽家、美味しい料理で人を幸せにするシェフ、献身的に人をケアする介護士。彼らは、偏差値とは異なるものさしで、とてつもなく高い価値を生み出している。多様な価値を認め合う社会こそが、豊かで、強く、しなやかな社会だ。

3. 「経験」という、最も信頼できるものさしを信じる
机の上で得られる知識には限界がある。旅に出て、本を読み、様々な人と出会い、時には手痛い失敗をしよう。成功体験は自信を与え、失敗体験は人に深みを与える。それら一つひとつの「経験」が、血肉となり、学歴や肩書きといった薄っぺらいラベルでは測れない、君という人間の厚みを形作っていく。

最後に、今まさに偏差値の呪縛に苦しんでいる君へ。

君の価値は、たった一枚のテスト用紙で決まるほど、決して安っぽくはない。模試のE判定が、君の人生のE判定を意味するわけでは断じてない。

Wakatte.TVの動画を見て笑うのもいい。腹を立てるのもいい。だが、その感情に流されて思考を止めてはいけない。なぜ自分はそう感じるのか、この社会の構造はどうなっているのか、深く、深く考えてみてほしい。

そして、勇気を持って、その呪縛から一歩を踏み出してほしい。
自分の頭で考え、自分の心に問いかけ、自分の足で歩き出すのだ。

その先にこそ、偏差値では決して測れない、予測不能で、だからこそ最高に面白い、君だけの未来が待っている。